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仙台高等裁判所 昭和35年(ラ)25号 決定

抗告人 渡部文子 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は別紙記載のとおりである。

論旨は要するに、本件競売開始決定に表示された債務者兼所有者渡部亮一(抗告人らの被相続人)は、本件競売申立前既に死亡していたから、右開始決定は無効である。しかしてこの競売手続において言渡された競落許可決定は違法であり、取消さるべきであるというのである。

よつて按ずるに、本件競売記録及び抗告人らの提出した戸籍謄本によれば、本件競売開始決定に債務者兼所有者と表示されている渡部亮一は、右開始決定前であるのは勿論、本件競売申立前である昭和三三年一〇月一八日既に死亡し、本件開始決定当時抗告人らがその相続人として債務者兼所有者たる地位を有することが明らかである。しかしそうだとしても、競売法による競売手続においては、承継執行文の附与及び送達に関する民事訴訟法第五一九条、第五二八条の規定の準用される余地はないから、たとえ執行裁判所において、競売開始決定後に債務者死亡の事実を発見しても、強制競売手続におけるように、競売手続を許すべからざるもの(競売法第三二条第二項、民事訴訟法第六七二条第一号参照)として、競売開始決定を取消し、その申立を却下すべきではなく、ただ単に債務者兼所有者の表示に明白な誤あるものとして、その表示を相続人たる抗告人ら両名に更正すれば足りるものと解され、このように更正すべきものを更正しないからといつて本件競売開始決定の効力に何ら消長を来すべきものではない。

さすれば、右開始決定の無効を前提として、本件競落許可決定の取消を求める本件抗告理由はこれを容認するに由なく、また本件記録によれば本件競売開始決定も競売法第二七条第二項による競売期日の通知も債務者渡部亮一宛ではあるが、いずれも相続人たる抗告人らの住所に送達されて受領されていることが認められ、他に記録を精査しても原決定を取消すべき事由はこれを見出し得ないので、本件抗告は理由がなく、棄却を免れない。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八四条を適用して、主文のように決定する。

(裁判長裁判官 村上武 裁判官 上野正秋 裁判官 鍬守正一)

抗告の趣旨及び理由

仙台地方裁判所が同庁昭和三四年(ケ)第二一九号抵当権実行による不動産競売事件について、昭和三五年三月一八日言渡した仙台市大和町一丁目二四番家屋番号第二〇番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一七坪二合五勺現在二八坪に為した競落許可決定は之を取消し、更に相当の裁判を求めます。

一、抗告申立人二名は本件競売事件の競売開始決定正本に表示された債務者兼所有者渡部亮一の相続人であるが、本件は昭和三四年一二月四日競売開始決定が為されたるところ、同人はこれより先の昭和三三年一〇月一八日午前十一時三〇分死亡し実在せざる人物であります。

然るに同裁判所は債権者の申立をそのまま認め、実在せざる死亡者を所有者及債務者として競売開始決定を為したるものにして、原始的に本件競売開始決定は無効なものというべきであり、従つて之に基いて言渡された競落許可決定は取消さるべきものであります。

二、本件申立債権者は正当なる権利行使につき違法の手続を以て手続を進行せしめたるものにして、本来なれば債権者代位権を行使し本件競売申立不動産について所有者死亡に基く相続による所有権の移転登記を為した後において抵当権の実行を為すべきにかかわらず、死亡者を相手方として競落許可決定を為したるは違法であり、抗告の趣旨にかかぐる如く競落許可決定の取消を求めるために抗告の申立に及びます。

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